西村院長の歯科コラム

静脈内鎮静法

カテゴリ:無痛治療(痛くない治療) 

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歯科治療を受ける際に、どのように治療を受けたいと思われるでしょうか? 願わくば、できるだけ楽にすんなりと治療が終わればいいな、と思われている方がほとんどではないでしょうか。
歯科治療をできるだけ負担を少なく、楽に治療を受ける方法として、「静脈内鎮静法」という方法があります。
鎮静法には、笑気吸入鎮静法、経口鎮静法、静脈内鎮静法、筋肉内鎮静法、があります。いずれも治療中の意識レベルを維持し、患者と術者の意思疎通をとりながら治療をすすめるものです。
鎮静法の特徴は、
1) 不安、緊張を和らげる
2)血圧、脈拍を安定させる
3)健忘効果が得られる
などが挙げられます。
特に、静脈内鎮静法では、点滴で薬剤を投与するため、確実な効果が期待できます。また薬剤の投与を停止することで30分ほどで帰宅することが可能です。
そのほか、点滴から、抗生物質、鎮痛剤、消炎剤を投与することもできるため、インプラントの手術後の腫脹を軽減させたり、鎮痛効果を期待できます。
具体的に、鎮静剤を投与したのちは、うたた寝をしたような心地よい状態でリラックスすることができますので、気が付いた時には手術が終わっているという感じになることが多いです。
また、鎮静剤を投与することで、血圧、脈拍などの循環動態が安定する傾向になりやすいため、高血圧症や狭心症、心筋梗塞の既往がある方にも安心して治療を受けていただくために有効な選択肢となり得ます。
その他、嘔吐反射があり歯科治療が苦手な方の場合にも、薬剤の選択によって反射を抑えることができるため、反射による治療困難に悩まれている患者さんにとっては福音となるかもしれません。
静脈内鎮静法が、笑気吸入鎮静法や経口鎮静法、筋肉内鎮静法と異なる点は、鎮静の薬剤の投与のコントロールができるため、確実な鎮静効果が期待できることです。また、静脈ルートが確保されており、必要に応じて迅速な薬剤の投与ができるため、血圧や脈拍のコントロールも期待できます。
笑気吸入鎮静法は、吸入用マスクを鼻に乗せるだけで10分以内に緩やかな効果が期待できますが、その作用はマイルドです。確実に効果を実感できるほどではないかもしれませんが、血圧・脈拍が次第に安定することでその効果を確認することができます。経口鎮静法は内服薬を服用しますが、効果の個人差をコントロールすることが難しくなります。筋肉内鎮静法は、静脈ルートの確保が必要ないため、静脈の視認性が低くルートの確保が返って患者さんの負担になる様な状況であれば適当な選択肢になるかもしれませんが、これもやはり薬剤の量や追加などが難しくなります。

静脈内鎮静法は、医科においても内視鏡による消化器の検査や、比較的短時間で済む簡単な手術に応用されていますが、血圧、脈拍、呼吸(CO2カプノメーター)、血中酸素濃度(SpO2:サチュレーション)、意識レベル(応答の確認、BISモニター)などのバイタルサインを随時モニタリングすることが大変重要です。また、循環動態や呼吸状態の変化に応じて、迅速に適切な処置を施すことが必要となります。私は、歯科医師としてお口の健康をまもることを第一に考えますが、近年における社会の高齢化に応じ高血圧、糖尿病をはじめとする様々な基礎疾患をお持ちで、複数の薬剤を服用されている患者さんが日常的に来院されることを踏まえ、総合病院の口腔外科手術における歯科麻酔科医として、手術室での全身管理も2014年から従事しています。
手術室における口腔外科の全身麻酔や静脈内鎮静法を提供する歯科麻酔医の視点は、通常の歯科医療における治療の視点とは様相が異なります。麻酔薬の投与とともに、鎮痛の管理を行い、血圧の変動、呼吸状態のモリタリングと必要な薬剤を投与します。手術中の患者さんは完全に無防備なため、患者さんご自身に変わって生命維持の責任を負っているのです。その様な医療行為は、歯科大学で一般的に提供される教育とは異なるため、ACLSなどの救急救命の研修も受け、医科領域の情報も日々研鑽することが重要です。
このように、静脈内鎮静法には、様々な利点があり、状況に応じて患者さんの救いとなりえるものです。しかし実際の施術には通常の歯科医療とは異なる、医科領域における十分な知識と経験と技量が求められる方法です。
使用する薬剤によっては保険適応と自費治療になる場合がありますので、ご相談ください。